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ヤモリとイモリ

私はハ虫類、とりわけヘビ類は大の苦手である。「山屋」のはしくれでありながら、こればかりは生来のもので治らない。一人で山道を歩いていて、傍らの草むらで「ガサッ」とでも音がしようものなら、「「すわ！」と身構えてしまう。たいていの場合杞憂に終わるのが常であるが、一旦出てしまうとそこはそれ背物教師の習性で、特徴などを細かく観察して種名を同定しようと試みたりする。幸い、毒蛇のマムシにはまだ遭遇したことがない。 　そんな私が大好きなハ虫類がヤモリである。私の住むボロ団地（とは言っても震災にはビクともしなかったのだが）にもいる。Ｈ高校の旧校舎にもいた。新校舎では残念ながらまだお目にかかったことはないが、そのうち棲み着くであろう。何故好きなのかと言うと、彼らの目が好きなのである。いかにも執念深そうなヘビの目と違い、ヤモリの目はどことなくつぶらで愛らしい。人間の家に住み着くというその習性から、人間に愛されるように進化してきた生物なのである。性格もおとなしく、天井の隅などに吸盤状の指でペタッとはりついて蚊などの虫を食べている。動きも鈍く、手を伸ばせば簡単に捕まえられる。掌に載せても逃げようとしない。人の掌の温かみを愉しんでいるかのように見える。 　いつか押部谷の実家に帰ったとき、ＤＫのすり窓ガラスの外側にはりついている２匹の大きなヤモリを見つけた。わが団地にいるものよりだいぶん大型で、種も違うようだ。下の写真のタワヤモリと思われる。変温動物は暖かいところを好む習性があるので、この夫婦ヤモリは台所の窓からささやかな暖を取っていたのかも知れない。父によると毎晩やって来るのだそうで、自分たち老夫婦の生活と重ね合わせたのか、彼らを見るのが日々の安らぎになっているかのようだった。ちなみに父もヘビは大嫌いである。

ヤモリとよく間違えられるのが、両生類のイモリである。ある生徒は中学校の理科の授業で、両者の区別の方法として、 「井森美幸は、ハ虫類じゃ可哀想。」と習ったそうである。 　先日氷ノ山で山岳部の総体があり、雨中その会場へ急ぐ山道に、２匹の黒いイモリが戯れているのを見つけた。（ものの本によると、イモリ同士は大変に仲が悪く、これはケンカと見られる）芦生の森に行ったとき以来、久しぶりに見た野生のイモリだった。思わず手で捕まえ、これを部員たちに見せてやったら喜ぶかな？と一瞬考えたが、無視されたらイモリにも可哀想だと思って放してやった。 　かつて押部谷小学校の校舎裏の溝にもイモリがいた。捕まえようと近づくと、一斉に赤い腹をひるがえして逃げてゆく。その当時はトカゲの一種だと思っていた。（下の写真；アカハライモリ） 　「発生」や「再生」の実験でよく使われることでも有名である。「再生」するからと言って、トカゲのように尻尾が切れるわけではない。ふざけて踏んづけたりしないでほしい。 　このイモリと近縁なものにサンショウウオがいる。比較的人里に近いところに分布するイモリと違い、この類は山奥の清流に棲むものが多い。サンショウウオと言うと、井伏鱒二の作品に出てくるオオサンショウウオを思い浮かべる。こいつは世界最大の両生類で、体長は１ｍを超えるものもいる。兵庫県内でも西播・但馬を中心にいくつかの川に生息している。食ったら美味いらしいが、天然記念物なので獲ってはいけない。それ以外のサンショウウオはイモリよりも小型のものが多い。カスミサンショウオなど、レッドブックに載るような希少種が多く、今後の保護には十分な注意が必要である。河川のコンクリート化が進む昨今、自然の水辺を守る意識が、行政にも住民にも求められている。

追記；2004年春、登山で訪れたボルネオ島のコキタナバルのホテルの壁に、ヤモリがいっぱいはりついているのを見つけた。インターネットで調べたところによると、日本のヤモリは、元々日本にいたのではなく、大陸から運ばれてきた木材か何かにくっついて渡来してきた「帰化生物」らしい。その証拠に、山奥には生息していないという。 　それでも、「ヤモリ」」という名前は「家守」を意味し、家の不幸を防ぐ生き物として大事にされてきた。あのつぶらな瞳に魅せられたのはどうもわたしだけではないようだ。

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