【My　Favorite　Musician】

③マイラバって誰？

確かスキー場に向かう夜行バスの中だったと思う。退屈しのぎに耳にはめたラジオのイヤフォン。ウトウト夢見心地の耳にその曲は飛び込んできた。何やら・・・ええ感じやなあ・・・ 　若い女性の甘い声が心をくすぐった。この曲とアーティストの名前を知りたいと思った。こういったラジオの音楽番組の場合、曲の前か後かどちらかにしか曲の紹介をしない場合が多い。何とぞ、曲の後ろにしてくれることを願った。もししてくれないと、しばらく気になってしょうがないのだ。その願いはかなえられた。 　「ナウアンドゼン、マイリトルラバーでした。」だが、私には・・・どっちが曲名で、どっちがグループ名かわからなかった。普通はどちらか片方覚えておけばいいのだが、両方を必死で脳のメモリーに書き込んでおかないといけない。それきり忘れてしまって思い出すのに苦労する場合も多いのだが、そのときは不思議とメモリー内容は失われなかった。それくらい曲のインパクトが強かったのかも知れない。 　間もなくその曲が、テレビのあるドラマのオープニング主題曲であることを知った。当然、その曲を聴くついでにドラマを見るようになった。石田ひかりと柳葉敏郎ともう一人の男優主演の、北海道の牧場を舞台にしたドラマだったと思う。と、書くといかにも爽やかなホームドラマをイメージする人もいるかも知れないが、実際は石田ひかり演ずる人妻と夫、そしてその弟のドロドロの三角関係を描いた暗いストーリーだった。最近のトレンディードラマってこんななのか、とそれ以降ドラマは見る気がしなくなった。 　もちろん曲自体には全くそんな不倫のイメージはなく、現代の若者の人生観を淡々と歌い上げるバラードである。今にして思えば、小気味よいテンポの多いマイラバの曲にしては、異色の部類に属す曲だったかも知れない。でも私を引き込む導入曲として、これほどぴったりの曲はなかったと言える。もし、この曲に出会わなかったら、未だにマイラバというアーティスト自体を知らなかったかも知れない。 　ほどなくCD店に足を運んで（その頃は中古なんて知らずもちろん新品）、探したら、「ｎｏｗ＆then」は、まだアルバムには入っておらず、シングルのみ売っていた。シングルはあまり買わない私だが、早速入手した。それからしばらくして、パソコンショップでCD-ROMを見つけた。今はDVDが全盛だが、その頃はまだなくて、映像と音声を同時に得るにはCD-ROMしかなかったのだ。 　このマイリトルラバーというグループ、テレビに出たのは見たことないので、何人組かも知らなかったが、このCD-ROMで謎が解けた。ボーカルはAKKOという女性で、＋２名の男性のトリオである。 　私より年配の方がマイラバを聴いたとき、嫌悪感を持つ人の方が圧倒的に多いかも知れない。AKKOの歌い方、声質は一見、いや一聴したら、いかにもチャラチャラして媚びる歌い方に聴こえるので・・・だが、しばらく聴き込んでいると、アイドル歌手の歌い方とは一線も二線も画しているんのがわかってくる。そう、彼女の歌はとてつもなく音程がしっかりしていて、計算しつくされた発声なのだ。 　何かの番組で聞いたが、彼女はちゃんと音大出ていて、発声の基礎ができているのである。音大出の歌手と言ったらみなさんは誰を思い浮かべますか？私がまず思い浮かべるのは大貫妙子サンである。彼女の独特の音感は、やはり特別に鍛えられたものであると感じる。そしてもう一人思い浮かべるのが広瀬香美。彼女の圧倒的な声量と声の伸び、これもプロの訓練なくしては得られないものだ。広瀬サンは、音大の教授に、「あなたの声はクラシック向きじゃないので、ポピュラーの世界に行きなさい。」と言われたらしいが、AKKOのさん何かはもうそれ以上だ。あの声でクラシック何か歌われた日にゃ、全国のPTAから抗議メールが殺到するだろう。それくらいセクシーボイスなのである。 　好きな曲を挙げろと言われると困る。「now＆then」も好きだけど、同じくらい好きな曲が目白押し、ベスト10もベスト５も選ぶのが困難である。 　一枚のアルバムを聴いていると、どんな好きなアーティストのものであっても、あまり好きじゃなくてスキップしたくなる曲もあるのが普通だ。ところが、マイラバのアルバムは違う。どの曲もすーっと抵抗なく耳に入ってきて、そして流れてゆく。いわばスポーツ飲料みたいな存在なのである。こんな歌毎日耳元で歌われたら、私はほとんど催眠状態に陥るだろう。彼女のメード、じゃなくてサーバントみたいな存在になってしまうかも・・・ホントにマイラバは麻薬である。 　現在、AKKOさんは育児休暇中で、マイラバは活動休止状態である。早く復帰して、また声を聴かせてほしい。ママになった彼女はもっと色っぽくなっているかも・・・期待感。

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