| 【MyFavoriteMusicianⅡ】 |
| （17)クリスタルな大橋純子さん |
| それはある思い出話から始まる。40年以上経った今でも鮮明に覚えているから、相当私にとっては衝撃的な体験だったのだろう。 大学４年生の12月。私の所属している講座のクリスマスパーティーが開かれた。場所はＨ教授のご自宅。院生・学部生のほとんどが参加したように思う。 Ｈ教授邸は、確か叡電鞍馬線の沿線だった。 ご馳走をいただき、歌を歌ったりして盛り上がった後、お開きとなったのは10時頃だったろうか。 当時、吹田のアパートに住んでいた私は、帰りの時刻が気になっていた。 叡電で出町柳まで戻り、（当時の叡電は今のように京阪とは接続していなかった。）そこに停めてあったマイバイシクルにまたがる。国鉄京都駅まではいつもこれで往復していた。え？飲酒運転？いやもう時効、時効。 それでも順調に走れば終電には何とか間に合うんじゃないかと思っていた。 ところが、ここでトラブル発生。突然フロントライトがパカッとはずれて分解したのだ。慌てて散乱したパーツを拾い集め復元しようとしたが、意外に手間取り、京都駅に到着したのはもう12時に近くなっていた。 大急ぎでホームに駆け込むと、まさに終電（普通）が出るところ、駆け込みギリギリセーフ！ と安堵したのも束の間、この日の運命はそんな甘いものではなかった。 「高槻、高槻、この電車はこちらまでです。お気をつけてお降り下さい。」 てなアナウンスが流れ、私は電車が高槻止まりなのを知る。 えーーーーー、何てことだ。 もちろん、ここから先の電車はない。私は12時すぎ、高槻駅に取り残されてしまったのだ。 当時の高槻はかなりの田舎町、ホテルや旅館なんてあったかどうか・・・仮にあったとしても、貧乏学生の私に泊まるという選択肢はなかったろう。 もちろんタクシーが使えるはずもなく、残るは一択、歩いて帰るしかない。 今は駅が増えているが、当時の駅は高槻から、摂津富田、茨木、千里丘、岸辺、吹田。駅数にして５個。一駅間が３㎞くらいとして15㎞だ。まあ、歩けない距離ではない。 私は国道を南に向かって歩き始めた。 もちろん、グーグルマップはおろか、地図もない。真夜中なので道を訊ねる人もいない。でも、東海道線に沿って歩いて行ったらいつかは着くだろう。そう楽観していた。 だが国道というものは、線路に沿ってついているわけではない。そのうち、線路は見えなくなった。それでも立派な太い道だから迷うことはなかろう、そう信じていた。 茨木を過ぎたあたりで、道が大きく二つに別れていた。国道自体は右へ大きくカーブし、左にやや細い道（おそらく府道）が分岐している。 ここで左を選んでいたら、２・３時間後には無事吹田に戻れていただろう。 ところが、何を魔が差したか、私は右の太い道を選んでしまった。これが長い彷徨の始まりだった。 歩くうち、周りが市街地ではなく、田園っぽくなってきた。え？ちょっと不安になる。そのうち、歩道橋などの表記が「箕面市」になっているのに気づく。 しまった、こいつは相当北の方に振ってしまったようだ。南（左）方向に軌道修正しなくては。 左方向には大きな高層団地群が見えていた。それが名高い千里ニュータウンであるとは、後日知った。 まだ足が元気だったから、どんどん歩けた。 ただ、方向感覚はメチャクチャだった。山用語で言う「ワンダリング」の状態。 覚えている地名表示からして、一度は千里丘駅に近い所まで行っていたようだ。国鉄の線路にさえたどり着けば後は迷うはずはない。 だが、それを逃し、私は何と再び北方向に向かっていたようなのだ。 見えた地名表示は「桃山台」。千里ニュータウンの中核部である。 高層団地群のど真ん中を私はあてもなく進んでいた。 このとき、私の脳内にガンガン鳴り響いていた曲がある。それはその頃流行っていた大橋純子の「クリスタルシティ」。いささか前振りが長すぎたが・・・ ♪ ブルーグレイの空に消える星座は 夜明けを告げるイルミネーション インクの匂い新しい新聞に並んだニュースまだ眠たそう Ｔａｋｅ a little shine high （中略） 走る高速道路は光の帯ね このまま行けばマンハッタン 軽いリズムで過ぎてゆく日々の中 このきらめき一つあればいい ここはいつでも不思議な街クリスタルシティ そうよ今日もあなたを待ってる ここはいつでも不思議な街クリスタルシティ そうよ今日もあなたを待ってる ♪ まさに、この桃山台は自分にとって「クリスタルシティ」だった。これだけ多くの人が住む巨大都市でありながら、誰も私に関心などない。孤独な寒さが体を締めつけた。 そして彷徨の果てに、私は北大阪急行線、千里中央駅のロータリーに座り込んでいた。自動販売機で買ったホットミルクセーキがやたらに美味く、この後クセになるのだが・・・ 間もなく始発電車がすべり込んできた。吹田まではすぐだった。 アパートに帰り、コタツのスイッチを入れて潜り込むと、たちまち夢に墜ちた。 大橋純子のメジャーデビューはこの２年前。25歳とやや遅いデビューだった。北海道でアマチュアバンドをしていたのが、そのソウルフルな歌唱力がプロデューサーの目にとまったらしい。 小柄な体から繰り出される圧倒的なパワーは、その頃の歌手には珍しかったのだろう。 現在で言うと、Superflyの越智志帆さんに相当するだろうか。 「シンプル・ラブ」に始まり、「たそがれマイ・ラブ」、「シルエット・ロマンス」など、その頃に大ヒットを連発するのだが、もう１曲好きな曲をと言われたら、次の「サファリ・ナイト」だろうか。 ♪ 熱い砂煙上げて 走るジープを見たよ それは恋に疲れた悲しいハンター 乾いた都会はまるで草も生えないサバンナ 失くした何かが目覚める午前零時 サファリ・ナイト 男と女は サファリ・ナイト 悲しい巡り合わせね 追われる方も追う方も 傷つけ合わずに生きてゆけないなんて アスファルトに降る雨は すぐに乾く都会の涙 （後略） その３ヶ月後、教員として就職した私が、４年越しのむなしいハンティングに突入するとは・・・ だから僕は未だに「愛し合い方を知らない。」 （次号は南佳孝で行ってみよう） |
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