僕と47都道府県（四国篇）
　舞台は四国に移ります。
　関西アクセントで親しみやすい地域。
　ここではどんなドラマがあったかな？
 ①香川県
　四国お遍路の入り口はまず香川県から。
　僕が初めて四国に渡るのは大人になってからだ。
　教師になって２年目、その頃友人Ｆは大学院在学中で、サイクリング同好会に所属していた。
　彼とはよく二人でお茶飲んだりしていた。そんな中、僕から持ちかける。
　「いっぺん、一緒にサイクリング行こうや。」
　「ええけど、どこ行きたい？」
　「ゆくゆくは北海道とか行きたいけど、まずは近場から。」
　そして、彼が計画してくれたのが香川の高松をスタートして徳島の鳴門と淡路島を経由して帰ってくるというもの。
　大学の４年間、毎日のように自転車は乗っていたから脚力に不安はなかったが、小６から愛用していたサイクリング車は大学４年の終わりに駐輪場から盗まれてしまった。
　Ｆによれば、サイクリング旅行をするためには「輪行」が必要で、そのためには分解・組立しやすいツアー車でないと、と。
　それで三宮の山田サイクルでオリジナル車を購入。値段はいくらか忘れてしまった。もちろん、輪行用のバッグとツールも。
　当時は三本橋はもちろんないから、船で青木から出た。
　高松港から即向かったのが「栗林公園」。フツーの日本庭園だった。
　その後、「讃岐うどん」を初体験したのだが、太くて堅くて不味かったので残した。未だに讃岐うどんにはそのときのイメージが残っていて苦手だ。「丸亀製麺」？いやあれは兵庫県の企業だがや。
　そしてその日は東へ走り、「津田ユースホステル」で宿泊。実は僕、ＹＨに泊まるのは初めてだった。小規模のＹＨだったが、夜にはきっちり「ミーティング」があった。内容はすっかり忘れてしまったが、施設長のおじいちゃんが司会していたような・・・
　それ以降は「徳島県」の項に譲る。

　それからしばらくは香川は通過すらしなかったが、結婚後、家族旅行で二度ほど訪れている。
　一度は小豆島。二十四の瞳の分教場を見た後、寒霞渓に向かう。この頃はマラソンマンとしてのピーク時。寒霞渓までは家族と別行動、走って登った。その甲斐なく、濃い霧で全く眺望なし。
　もう一度は金比羅参り。あの長い階段をやはり最後まで登った。家族は嫌がって登って来なかった。その後、屋島へ向かう。屋島の山頂まではケーブルカーが走っているが、またもや私は家族と別に歩いて登ることに。確か、僕の方が早く上に着いた記憶がある。
　屋島の上には何故か「水族館」があり、イルカだったか、シャチだったかのショーを見た。わざわざ山の上でやらなくてもよいものを・・・（笑）
　その後は通過することはあっても観光はしていない。「讃岐富士」に一度登ってみてもよいが・・・　
②徳島県 
　友人Fとの初自転車旅行は徳島県に入る。
　鳴門ユースホステルは小高い丘の上にあった。
　今にして思えばそれほど長距離走ったわけじゃないが、初めての本格的サイクリングで、「ケツが張ってイテテテ」だった。当時は今のように尻にパッドが入ったサイクリングウェアなんて手に入らなかったのだ。
　真夏ということもあり、疲労困憊で宿に辿り着く。
　ところが、受付で一悶着あった。
　若いスタッフ曰く
　「本ユースにお泊まりの方は、今夜の阿波踊りイベントに『連』を組んで参加していただきます。」だと・・・
　子供の頃からダンスや踊りは大の苦手だ。ましてやこの状況で何を好き好んで踊りになんか行くもんか。
　「すみません、疲れて体調悪いので休みたいんですが。」
　それでもスタッフは何やらゴチャゴチャ文句言っていたが、何とかその場は切り抜けた。
　粗末な夕食を済ませると、二段ベッドのある部屋にすっこんだ。他の宿泊客は続々と阿波踊りに出かけてゆく。たしかこの日は日曜日で、わざわざこのイベント目当てに泊まりに来た人も多いようだった。僕たちはたまたま最悪のタイミングに遭遇してしまったのだ。
　もちろん、「体調悪い」と申告した手前、館内をウロウロするわけにもいかない。
　「おい、ビール飲みたいな。」
　どちらからともなく言った。
　ビール飲みに出ようと思ったら、玄関ロビーを通らないといけないが、そこにはあの陰険なスタッフが睨みをきかせている。
　僕は名案を思いついた。名案と言うより、強行突破だ。
　「窓から出て脱出しよう。」
　「おい、靴はどうするんや。玄関行かんとはけへんぞ。」
　「靴下のまま行くんや。」
　そして、われわれは靴下のまま坂道を下った。
　うまい具合に、坂の下に小料理屋があった。
　「まずはビール！」いやとにかくビール！
　ほろ酔いで宿に戻る。靴下は真っ黒になったが、いい気分だった。
　寝床に潜り込むと思わず二人とも
　「ククククク」と笑いをこらえた。
　そこへ阿波踊りに行った連中が戻ってきて、食堂でスイカと冷やしそうめんのサービスを受けている。もちろん、我々にはなし。でもそんな差別待遇もクソくらえだ。
　徳島県人よ、他県民に阿波踊り文化を押しつけるのは止めろ。
　翌日、淡路の阿那賀までフェリーで渡り、淡路島を縦断し、岩屋から神戸に戻った。

　次の徳島は、20年近く後になる。
　百名山である剣山を目指して1997年のGWに新幹線と在来線を乗り継いで貞光へ。そこからバスで登山口へ。そこから剣山山頂はあっという間だった。
　山頂には大きなやぐら状の展望台があった。
　ここまでは楽勝だったのに、私は無謀にも二百名山である三嶺（みうね）までの縦走を敢行する。この頃、まだ縦走路はちゃんと整備されておらず、背の丈を超すようなヤブとの戦いだった。傷だらけで三嶺の避難小屋に到着、満月がきれいだった。
　翌日、朝露でビショビショになりながら三嶺に登り、東祖谷村に抜けた。そこからバスで池田町へ。ＪＲで帰神したと記録にはある。

　山はこれだけだったが、もう一つ忘れてはならないアクティビティがある。それは「モル三世号による「吉野川下り」。二度もチャレンジしている。
　一度目は池田町のビジネスに泊まり、ダムの下から下った。さすがに河口までは下りきれず、途中の河原まで。「何とかの大楠」を見物して帰った。
　二度目は明石海峡大橋ができていたので日帰りで行くことができた。前にやめた地点から河口近くまで。とても気持ちよかったが、最後に洗堰にボートが突っ込んでしまい。あわや大ケガするところだった。機会があったらもう一度行きたい！
　徳島は阿波踊りを別にすれば、行きやすくて楽しめる場所だ。「徳島ラーメン」をまだ食しておらず、ぜひそれも堪能したい。
③高知県 
　上陸回数、滞在日数いずれも四国ではダントツトップの県である。
　なぜ僕が高知と深い縁になったのか？
　初上陸は教員生活３年目を終えた春。
　その前の年に友人Fとの北海道旅行を敢行した僕は、自転車に関して少しばかり自信をつけており、一度単独旅行にチャレンジしてみたくなったのだ。ちなみに友人Fはこの春大学院を卒業して民間企業に就職しており、同行は無理だった。
　大阪南港から特急フェリーに乗る。一般に船は自転車を分解しなくてもそのまま乗せられるので、旅行には便利だ。
　翌朝、高知港に着いた僕はまず桂浜に向かった。坂本龍馬像と水族館のようなものがあった気がするが、はっきりとした記憶は残っていない。
　ついで向かったのは五台山。ここには「牧野記念植物園」がある。牧野富太郎の年譜やスケッチが展示されているこの植物園にはその後何度も行っている。牧野博士も自分がNHKの朝ドラの主人公になるなんて想像もしてなかったろう。（笑）　そして、僕自身も高知が自身のマラソンの舞台になるとは予測もしていなかった。
　その夜は「土佐荘」に宿泊したと記録にある。どんな宿だったか、全く記憶にない。
　３日目は東に向かって走り、「竜河洞」を見学した。秋芳洞に比べるといささかショボかった。「奈半利」まで走り、梅田屋という老舗旅館に泊まった。この宿の娘さんが可愛かったので、神戸に連れて帰りたかった。（笑）
　そして最終日は室戸岬へ。この室戸岬は山の上に登れば展望台やレストハウスがあるらしいのだが、僕はそれを知らず何もない海岸で休憩しただけだった。その日は徳島の甲浦まで走り、深江行きのフェリーで帰神した。その当時住んでいた押部谷の実家までは遠いので、板宿の友人Kさんの家に泊めてもらったようだ。
　そして、37歳からマラソンでの縁が始まる。篠山ABCマラソンの人の多さ、すなわちスタート時のタイムロスを嫌った私は、競技マラソンへの転向を決意した。最も近場の公認マラソンといえば「高知マラソン」だった。初参加の結果は、雨の中、わずか１秒差でサブスリーを逃すという残念なものだった。翌年からは「信毎マラソン」に河岸を変え、４年間高知からは遠ざかる。だが、「明石海峡大橋ハーフマラソン」と「信毎マラソン」の開催時期が重なったため、再び高知に戻り、それから10年連続出場を果たす。都合11回のレース結果は、完走９回（うちサブスリー２回）、途中棄権１回、関門失格１回というものだった。時期的には２月で参加しやすいのだが、いかんせん神戸に比べて気温が高く、苦戦した印象が強い。
　それ以外には、家族旅行で１回行き、高知市内の旅館に泊まって皿鉢料理を味わった。
　そして、忘れてならないのは、「四万十川」をめぐる自転車やボートの旅である。
　最初は高知からロードレーサーで仁淀川を遡行し、四万十川の源流域に達した旅。テント泊が暑くて眠れなかった記憶が・・・
　二度目は足摺岬に船で上陸し、列車で江川崎まで行き、そこからモル三世号で下ったのだが、川の水量が少なく流れも弱く、途中で暗くなってしまい、生まれて初めて「野宿する」経験をした。翌日、何とか河口近くまで下ったのだが、水没した食料のパンをうっかり食したことから食中毒でひどい目に合った。
　四万十には家族でも一度訪れ、昆虫館を見て、天然ウナギや手長エビなど、地元食材を味わった。
　あれほど慣れ親しんだ高知県だが、もう長いこと行っていない。高知駅前の喫茶店「Joyful」、地元コンビニ「如月」、ラーメン店「豚太郎」。まだ健在だろうか？　　　  
④愛媛県 
　四国四県のうちでは、愛媛県が一番上陸が遅かった。
　1994年の春、私は同僚で一緒に山岳部顧問をしているH氏と共に瀬戸大橋を鉄道で越え、香川から愛媛に入った。
　西条からバスに乗り中之池で降りる。お天気は上々、暖かい春の日。
　だがその陽光の中に、予想もしない陥穽が仕掛けられていた。
　この登山の最終目的地は石鎚山。手始めに瓶ヶ森への登りになかった。
　大体、「瓶ヶ森」の読み方も知らなかった私は、完全にこの登山をナメていた。コースタイムどおり歩けば、この日のうちに石鎚山を制し、テント泊の後帰神のつもり。
　だが、そんな我々の行く手を阻んだのは大量の「残雪」だった。腰までもぐるなんて、人生初の体験。結局その日は瓶ヶ森にさえ到達できず、雪に囲まれてテントを張った。
　H氏は不安でその夜眠れなかったという。僕よりはよく寝ている気がしたが（笑）。
　翌朝ようやく登頂した瓶ヶ森山頂には嘘のように雪がなく、春うららそのものだった。
　結局、雪の北斜面を「尻セード」で下り、雪の消えた所でテントを張った。翌日はバス停近くの民宿のおばさんのお世話になり、ビール飲んで帰った。
　私がリベンジに向かうのは２年後になる。今度は六甲アイランドからフェリーで松山観光港へ。バスを乗り継ぎ、徒歩でつないでようやく面河に入り、ここでテント泊。翌日は雪のない南斜面を登り、石鎚山山頂へ。下山後再びテント泊。翌日は瓶ヶ森のときと同じ下山道を辿り、松山で坊ちゃん湯につかって帰った。
　そこからまた月日は流れて約20年後。私は還暦を超え再任用の身分だった。
2017年GWに再び鉄道で西条へ。タクシーで登山口へ向かったが、トランクにはピンクちゃんを積んでいた。下りは自転車で乗り切ろうという算段。
　丸山荘という山小屋に到達し、ここでテントを張る。だが、その夜からひどい雨が降りだした。夜半にはテントの床から浸水が始まり、とても寝ていられなくなり、丸山荘に緊急避難、素泊まりで泊めてもらうことに。風呂もあって、こんなことなら初めから小屋泊まりにするのだった。
　翌日、雨は上がらないどころか、ますます暴風雨に。そんな中、笹ヶ峰を登り、縦走して寒風山から伊予富士へ。三百名山も楽じゃないわ。丸山小屋にやっとのことで戻って来た。翌朝、そのまま帰ってもよかったが、天候が回復して青空が覗いていたため、笹ヶ峰にリベンジ登山。今度は絶好の眺望を得たのだった。
　その翌年、私は62歳で教職をリタイアし、その初登山として選んだのがやはり愛媛県の東赤石山。今度はGWを避け５月中旬、鉄道を乗り継いで新居浜へ。荷物はテントのみで、自転車は持たなかった。ここでホテル泊後、タクシーで登山口へ。避難小屋の近くにテントを張り、その日のうちに東赤石山山頂へ。アケボノツツジが満開だった。テント泊後、徒歩とコミュニティバスで新居浜、岡山経由で帰神。
　同じ年の７月、私はまたまた愛媛に向かう。四国の三百名山を一気に片付けてしまおうという目論見だった。夜行バスで初の宇和島入り。宇和島のビジネスホテルに連泊、まず向かったのは三本杭。登山口までタクシー、楽勝で日帰りの予定だったが、下りで道を間違え、約束に５分遅れた。ここまでは降られることなく順調だったのに、史上稀に見る集中豪雨の湿舌がペロペロ接近していた。
　四国最後の三百名山、篠山は高知県との県境、まずは路線バスで向かい、地元のコミュニティバスに乗り継ぐ予定だったのが、コミュニティバスは大きく前方で手を振る私を無視してスルー。役場に苦情の電話を入れるが暖簾に腕押し。結局タクシーを呼ぶことに。これが不幸中の幸いで、タクシーはギリギリ上まで登ってくれたため、大雨の中、往復１時間もかからず登山を終えることができた。
　宇和島に戻り、その夜の夜行バスで帰る予定だったのに、まさかの着信メールは大雨でバスは運休、ホテルの延泊も不可能で別ホテルに移動。
　さあ翌日は松山市駅から特急に乗り込むも、突然の土砂崩れで特急は運休、まさかの切符払い戻し。瀬戸大橋も不通で、神戸に戻る手段は新居浜からのフェリーしかないことを知る。新居浜までのバスは辛うじてつながり、私は四国閉じ込めを免れたのだった。
　これで四国の三百名山を完登し、もう当分四国とは無縁と思っていたが、2020年のコロナ下、私は何を思ったか、「しまなみ海道」のサイクリングを思い立つ。３月中旬、新幹線で新尾道へ。尾道港からフェリーで向島に渡り、しまなみ海道へ入る。愛媛県に入り、大三島のIKIDATEで一泊、翌日伯方島、大島を経て今治城にゴールしたのだった。ホワイト君の健闘が光る。
こうしてみると、愛媛県は僕にとって波瀾万丈、数々のドラマを生んだ県だった。保守的な県民性と言われるが、人は温かかった印象がある。また機会があれば行って、蛇口からポンジュースを飲んでみたい。（笑）　 
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