西宮北口

結婚準備のため、西宮北口から阪急の線路に沿って東へ10分のところに２ＬＤＫのマンションを借りたのは、８３年の２月だった。このあたりは、立派な大阪の衛星都市でありながら、まだ田んぼや畑が多く残っており、ＪＡもある。阪神やＪＲでは、神戸から大阪まで行く間、決して農地を見ることはできないのだが、阪急は別である。朝、駅へ急いでいるとき、用水路で農家のおばさんがネギやほうれん草を洗っているのを見ると、心が和んだ。 　買い物は近くにはないが、選択肢が多かった。武庫川方面に行くとスーパー「ライフ」。駅の南側にはニチイ（現SATY）、北側にはCO-OP、中津浜線を北上するとダイエー。市場もあった。この市場、震災で壊滅したが、「ポンテリカ」（この名称の由来には笑ってしまった。）でしばらく営業した後、現在は「アクタ西宮北口」に移っている。 　結婚までの３ヶ月ほどが、二人にとって一番の「蜜月」だったかも知れない。結婚してからは気苦労した思い出しかない。 　子供ができた頃、浜甲の公団住宅が当たり、やっぱり家賃が安いに越したことはないとそちらに移った。もうこれで北口とはおさらばと思っていたら、阪神養護に勤めるようになってから、単なる通過点としてではなく、買い物や一服によく立ち寄っている。よく出没するのは、アクタ北口の「ジュンク堂書店」と「ミドリ電化」である。かつて恒例となった「月末反省会」も北口でやることが多かった。 　震災を経て、北口は大幅にリニューアルされ、大規模なショッピングモールの建ち並ぶターミナルとなった。「関西で最も住みたい町」のトップであると言う。もうここに済む可能性はなくなったが、通りかかる度にその変貌に驚かされる。

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