吹田

京都の下宿に辟易した私は、大阪に脱出することになった。たまたま、父の職場近くの官舎に空き家があり、安く借りられたのだ。それは吹田にあった。大学まで片道１時間半かかるとは言え、８畳、６畳の２ＤＫ（もちろん風呂もある）という、学生にはもったいない間取りだった。ただし、家財道具がほとんどないので、８畳一間は使わず空けたままにしていた。結局、ここで３年間、半自炊生活を送ることになる。 　吹田も今は再開発で随分変わったようだが、当時はそれほどにぎやかではなかった。駅前にデーンと構えるのはアサヒビールの工場。この頃はキリンとサントリーにシェアを食われてアップアップ状態。それが今は堂々のシェアNo1に。「プロジェクトＸ」にも取り上げられた。それには拍手を送りたい。 　やはり駅前にあった「ミドリ電化」もその後急成長して、「エディオン」になった。ここで買った特価品の洗濯機は、独身生活を支える心強い味方だった。 　裏へ散歩していくと、名神高速を越えて、関大のキャンパスに迷い込む。ときどきここの学生のフリをして、女の子の多い構内を歩いていた。幸い高校の同級生には会わなかった。 　小さいながらスーパーや市場もあって住みやすい街だったが、何よりよかったのは、口うるさい友人たちから逃れて、一人暮らしを満喫できたことだ。（電話も引かなかったので） 　数年前、一度この地を通りかかったが、採用試験の合格を一人祝った中華料理屋「桃園」も今はなく、チェーン店の派手な看板が目立つ街角に変わっていた。 　その後、アサヒビールの工場も移転し、駅の東側は大規模モールに。 　あの大規模な国鉄官舎は一部が民営化された後も残されている。

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